売却価格での申告

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土地の時価

 相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、同法に特別の定めのある場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しています。

実際の売却価格による申告

 相続税土地評価において、相続財産である土地を実際の売却価格をもって評価額とすることは可能でしょうか。確かに、実際に取引が行われているのだからそれが時価であるとの主張は明快ですし、ときに売却価格での申告が問題なく処理されることも承知しています。しかし、法が求める「時価」は、通常は客観的な交換価値と解釈され、これは個別具体的な売買価格とは必ずしも一致しません。実際、いくつかの争訟事例では売却価格による申告が退けられ、評価通達によって評価する旨が裁決されています。

◇大裁(諸)平23第59号(平成24年6月14日)
相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、同法に特別の定めのある場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、ここにいう時価とは、当該財産の取得時における現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解される。(中略)そして、評価通達が宅地、山林及び雑種地等の土地並びに建物等の不動産に関して定める評価方式は、いずれも、不動産の客観的交換価値を評価する方法として合理的なものということができるから、課税の公平の観点をも踏まえると、評価通達に定められた評価方式によっては当該不動産を適切に評価することができない特別な事情があると認められない限りは、当該方式によって当該不動産を評価することに合理性があり、通達評価額をもって、当該不動産の客観的な交換価値、すなわち時価とするのが相当である。そして、相続人が相続によって取得した不動産を売却した場合においては、現実の売却価額はその取引の際の個別的な事情によって左右されるものであるから、当該売却価額をもって当該不動産の客観的な交換価値であると一般的にいうことはできず、当該売却価額と当該不動産の通達評価額とが乖離していることから直ちに、評価通達に定められた評価方式によっては当該不動産を適切に評価することができない特別な事情があるとして、当該売却価額を時価とし、又は当該売却価額を基に時価を算定することはできない。

 注意が必要なのは、適正な「時価」を求めるためには通達評価が万能とされているわけではない点です。それは、評価通達6「この通達の定めにより難い場合の評価」の存在からもわかるでしょう。実際の売却価額のほうが時価を反映していることもあり得ますし、そのような場合には、理屈上は売却価額をもって申告してもいいはずです。もっともそれが心配な場合は、売却価額の妥当性を鑑定評価で裏付けして申告することもあり得ます。

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