貸家建付地価額は「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」で求められます。質疑応答事例はこの賃貸割合について、原則として、「課税時期において実際に賃貸されている部分の床面積に基づいて算定」としながら、「一時的に空室となっている部分の床面積を実際に賃貸されている部分の床面積に加えて算定して差し支えありません」としています。ここでは、実務でしばしば問題になる、この「一時的」の範囲について取り上げます。
賃貸中カウントの5要件
実際には空室でありながら、賃貸割合計算において賃貸中としてカウントできる場合(本記事では「賃貸中カウント」とよびます)について、質疑応答事例では、5つの判断基準を示しています。
◇国税庁質疑応答事例「貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲」(抜粋)
「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる」部分の範囲
アパート等の一部に空室がある場合の一時的な空室部分が、「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる」部分に該当するかどうかは、その部分が、①各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか、②賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか、③空室の期間、他の用途に供されていないかどうか、④空室の期間が課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であったかどうか、⑤課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうかなどの事実関係から総合的に判断します。
H20高松裁決
国税不服審判所裁決事例平20-06-12裁決(高裁(諸)平19-25)では、短いもので2ケ月、長いもので1年11ケ月の空室がありましたが、下のような理由で、賃貸中カウントを認めています。
◇裁決事例平20-06-12裁決(高裁(諸)平19-25)
本件空室について速やかに所要の手当てを施した上で不動産業者に入居者募集の依頼を行っているほか、築25年の本件建物(Aマンショ及びポンプ室)について定期的に補修等を施すなど、経常的に賃貸に供する意図が認められる。なお、本件建物の近隣周辺にはマンション等の共同住宅が林立していることからすると、空室が発生したからといって速やかに新入居者が決定するような状況ではなかったことが認められる。また、本件建物の各部屋の間取りも20室すべてが統一されたものであり、各室に対応した駐車スペースも確保されるなど、その形状は共同住宅としてのものにほかならない。加えて、被相続人は、相続開始日まで継続してAマンションを賃貸の用に供し、不動産収入を得ていたことは明らかである。
近年の裁判所判断
上の国税不服審判所裁決事例では、長いもので2年近い空室期間がある部屋について賃貸中カウントが認められました。これを根拠として、数か月空室期間があっても募集を継続してさえいれば、問題なく賃貸中カウントできるという考えがあります。しかし、近年の裁判所は、賃貸中カウントについては厳格な判断を行っているように思えます。
平成28年07月20日地裁:募集していても4カ月空室⇒賃貸中カウント否認
平成28年10月26日地裁:募集していても5カ月空室⇒賃貸中カウント否認(平成29年05月11日高裁も地裁を支持)
平成29年03月07日地裁:募集していても2カ月+23日空室⇒賃貸中カウント否認(平成30年01月12日高裁も地裁を支持)
H28大阪地裁判断
平成28年10月26日大阪地裁は、貸家建付地に減額調整が行われるそもそもの趣旨を解りやすく説明しています。
◇平成28年10月26日大阪地裁
評価通達93及び26本文が貸家及び貸家建付地について、所要の減額を認めた趣旨は、借家権の目的となっている建物の借家人は当該建物に対する権利を有すると共にその敷地についても借家権に基づいて建物の利用の範囲内である程度の支配権を有しているところ、賃貸人は、自己使用の必要性等の正当の自由がある場合を除き、賃貸借契約の更新を拒絶したり、解約の申し入れをしたりすることができない(借地借家法28条)から、借家権を消滅させるためには立退料の支払いを要することになる(中略)等から、上記の建物およびその敷地の経済価値が、借家権の目的となっていない建物やその敷地に比べて低くなることを考慮したことにあると解される。
上のような考えに立つかぎり、原則としてはあくまでも借家人が現にいることが貸家建付地減額調整の要件であるといえ、一定期間の空室を賃貸中カウントするのは「不動産の取引実態等に照らして」実情に即するための、「例外的」扱いといえます。例外である以上は、原則の趣旨を逸脱しない範囲で制約的に扱われるのが当然であるという、裁判所の考えが読み取れます。 より具体的には「募集さえしていれば賃貸中カウントOK」のような緩い基準ではなく、下のような基準が示されています。
評価通達26(注)2の一時的空室部分といえるためには、当該独立部分の賃貸借契約が課税時期に終了したものの引き賃貸される具体的な見込みが客観的に存在し、現に賃貸借契約終了から近接した時期に新たな賃貸借契約が締結されたなど、課税時期前後の賃貸状況に照らし実質的にみて課税時期に賃貸されていたと同視しうることを要するというべきである。
まとめ
賃貸中カウントについては、以前は実務でも「募集さえしていればOK」というような基準がまかり通っていました。しかし、年々そのハードルが高くなってきているように感じますし、減額調整の本来の趣旨からしてやむを得ないことなのかもしれません。
なお、「現に空室があるならその分収益は減るので、貸家建付地の価値も下がるところ、減額調整を広く認めるべき」という反論もあります。しかし、これは貸家建付地減額調整の趣旨とは異なりますし、そもそも家賃を下げれば通常空室率は減る(収益は増える)ため、現にある空室が直ちに不動産の本質的価値を決定するわけではないので、間違いです。
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