縄伸びと縄縮み
(1)縄伸び・縄縮みとは
縄伸び・縄縮みとはいずれも実測面積と登記面積との齟齬を表す概念です。前者は実測面積が登記面積より大きい事を、後者はその逆を表します。登記面積は、技術水準が現在よりも未発達の時代に行われた測量に基づくものも多く含まれており、このような齟齬が生じる原因ともなっています。
実測面積>登記面積 : 縄伸び
実測面積<登記面積 : 縄縮み
(2)信頼性の高い登記地積とそうでない登記地積
分筆登記や地積更正登記が行われた土地は、法務局に「地積測量図」が備え付けられています。その実測面積は登記簿に反映されるため、公簿面積と実測面積は一致することになります。したがって新しい地積測量図が法務局に備え付けられている登記簿の登記面積は信頼性が高いといえます。一方で、地積測量図がない土地や、あっても古いものの場合は、その土地の登記面積の信頼性には注意が必要です。
(3)縄伸び・縄縮みの凝縮といわゆる残地測量図
不動産登記法の平成17年改正以前は、分筆登記の際には分筆する側の土地だけ求積されればよく、残りの部分(「残地」といいます)については、必ずしも求積の必要はありませんでした。なお、右下図のような「1-2の地積測量図」は、「1-1の残地測量図」とよばれることもあります。残地測量図といっても残地を測量したものではありません。
「1」土地の縄伸びが判明する | 現在「1」土地の縄伸びは判明しない | 平成17年以前
必要 測量必要 800㎡ 200㎡ | 測量 不要 測量必要 引き算で700㎡ 200㎡ ⇓ 残地(この場合登記地積は不正確) 新たに作成される「1-1」の全部事項証明書の地積欄は700㎡ | 測量
したがって、もともとの土地の地積が不正確な場合、分筆が繰り返されると、「縄伸び」「縄縮み」の齟齬割合はどんどん凝縮(増大)されていくことになりました。残地測量図の扱いにも気を付ける必要があることが分かります。下表は、100㎡の縄伸びがある登記面積900㎡の土地(③)を200㎡ずつ分筆(②)した場合を示す例です。
①実測面積 | (測量の上分筆) | ②分筆面積③登記面積 | 1-(③÷①)% | ④誤差割合|
分筆0回 | 1000㎡ | - | 900㎡ | 10% |
分筆 | 1回800㎡ | 200㎡ | 700㎡ | 13% |
分筆 | 2回600㎡ | 200㎡ | 500㎡ | 17% |
分筆 | 3回400㎡ | 200㎡ | 300㎡ | 25% |
分筆 | 4回200㎡ | 200㎡ | 100㎡ | 50% |
この例では、当初10%だった誤差割合(④最上段)が、4回の分筆で50%にまで拡大(④最下段)しています。
評価通達上の扱い
(1)実際の地積とは
相続税土地評価上は、この縄伸び・縄縮みはどのように扱えばいいでしょうか。評価通達8は、「地積は、課税時期における実際の面積による」としており、この「実際の面積」については以下が参考になります。
◇国税庁質疑応答事例(「実際の地積」によることの意義)
【照会要旨】 土地の地積は、「実際の地積」によることとなっていますが、全ての土地について、実測することを要求しているのでしょうか。
【回答要旨】 土地の地積を「実際の地積」によることとしているのは、台帳地積と実際地積とが異なるものについて、実際地積によることとする基本的な考え方を打ち出したものです。したがって、全ての土地について、実測を要求しているのではありません。実務上の取扱いとしては、特に縄延の多い山林等について、立木に関する実地調査の実施、航空写真による地積の測定、その地域における平均的な縄延割合の適用等の方法によって、実際地積を把握することとし、それらの方法によってもその把握ができないもので、台帳地積によることが他の土地との評価の均衡を著しく失すると認められるものについては、実測を行うこととなります。
◇熊裁(諸)平22第13号(平成23年6月06日)
評価通達8は、地積は、課税時期における実際の面積による旨定めているところ、評価の対象となった土地について測量が行われ、実際の地積が明らかである場合には、その実際の地積を基として評価し、測量が行われていない場合には、公簿面積を基として評価するのが相当であると解される。
ここからは、①全ての土地について実測を要求されているわけではない、②特に縄伸びの多い山林等については登記地積を採用できない、③測量が行われている場合には測量地積が、行われていない場合には公簿面積が「実際の面積」ということが読み取れます。
(2)測量図の種類と「実際の地積」
測量図には、確定測量図、現況測量図、地積測量図の3種類があります。確定測量図とは、隣地所有者の承諾をもとに境界確定がなされている測量図であり、売買や物納等の際に必要になります。現況測量図とは、任意のポイントを基に行われた測量に基づくもので、そのポイントが境界という合意があるとは限りません。地積測量図とは、法務局に登記され備え付けられている測量図です。上で、「測量」が行われている場合にはその測量地積が「実際の面積」であるとの解釈を紹介しましたが、ここでいう「測量」については、十分な信頼性があれば現況測量でも足りるとする裁決が出されています。
◇熊裁(諸)平22第13号
本件実測図等の本件各土地の範囲は、各隣接地所有者との間で事実上争いのないものであることが認められる。そして、上記ロの(ロ)のとおり、本件実測図等は、被相続人死亡後の平成19年10月14日の測量に基づき作成されていることが認められるから、本件実測図等に記載の本件各土地の面積は、課税時期における実際の面積であると認められる。したがって、本件各土地の地積は、本件実測図等の面積によるべきである。
一方で、隣地と境界について係争中であり里道の範囲が不明確でもあるような現況測量値(2142.86㎡=2181.07㎡-38.21㎡(里道))での申告が否認され、登記地積(2208㎡)が採用されたケースもあります(大裁(諸)平23第59号)。
縄伸び・縄縮みと図面作成
縄伸びや縄縮みが大きいと、想定整形地は描くことができても、計算結果に違和感が生じます。想定整形地の地積が、評価対象地のそれよりも小さく算出されることすらあり得ます。このような土地を評価する場合、評価用図面はどのように作成すればいいでしょうか。方法はいくつかありますが、いずれも一長一短であり、どれかをとって他を犠牲にするしかありません。
(1)面積齟齬は無視して公図のまま図面作成する方法
多少の違和感には目を瞑って作図を行うのも方法の一つでしょう。法務局備え付けの公図を基に作図をすることが多いわけですが、そもそも公図は公の図面です。気軽に拡大・縮小コピーすることに抵抗を感じるのは普通の感覚です。実態と登記地積との乖離がわずかな場合には、この方法は実務上頻繁に採用されていると思います。違和感が大きい場合は、いっそのこと不整形地補正を行わないという選択肢もあり得ます。
想定整形地:225㎡ | 登記面積:180㎡0.2=(225-180)/225 陰地割合20% | 公図をざっと測ってみたら 202.5㎡ ネットの航空写真測定 でもそんなもの | あああああああああああああああ |
(2)形状はそのままに面積を合わせる方法
手作業ならばコピー機で、CAD使用ならばその操作で、公図を拡大・縮小します。公の図面を加工することは決して好ましくはないのでしょうが、縄伸びや縄縮みが現実に存在し、全ての土地について実測が要求されているわけではない以上、仕方ないといえます。寸法を変えるとはいっても形状は維持されます。市販のソフトの多くはこの方法を採用しているようです。
想定整形地:225㎡ | 登記面積 :230㎡公図をざっと測ったら202.5㎡ ネットの航空写真測定でもそんなもの | 107%(≒√(230÷202.5)) 拡大コピー | 想定整形地:256.5㎡ | 登記地積 :230㎡
(3)いずれかの辺の寸法に合わせる方法
必要に応じて公図を拡大・縮小し、一辺を正しい長さに合わせます。この場合、形状によっては面積は正確なものに近づきますが、完全に一致するとは限りません。もし面積までをも合わせようとするなら、ほかの辺の寸法を加工することになりますが、当然形状は変わってきます。この方法が用いられることは少ないと思います。
(4)現況測量を行う方法
測量士・土地家屋調査士さんに依頼して現況測量を行う方法もあります。もちろん、「全ての土地について実測を要求」されているわけではないので、費用対効果を考えたうえで、判断することになるのでしょう。
公図を切り貼りしても合わない場合
連続する筆の公図が別の用紙に分かれており、それぞれを切り貼りしても整合しないことがよくあります。各土地の地積測量図があれば問題ないのですが、それが無い場合に作図用の図面をどうするのかが問題になります。
いくつかの方法が考えられますが、どれかが唯一の正解ということではありません。作業量やコストが過大にならない範囲で、評価額が妥当と思われる水準に落ち着けば、それが落としどころなのではないかと思われます。個人的な感覚の話になってしまうのですが、⑤は10年ほど前にはごく一般的に行われていた方法です。⑦はCADが無いとやや難しいかもしれません。⑥はコストに余裕があり、必要性が高い場合にのみ用いられる方法ではないでしょうか。
①建築計画概要書(あれば)の形状で地積が合うように拡大縮小する。
②開発登録簿(あれば)の形状で地積が合うように拡大縮小する。
③航空写真の形状で地積が合うように拡大縮小する。
④住宅地図の形状で地積が合うように拡大縮小する。
⑤拡大縮小せずにそれらしく重ねて作図する。
⑥現況測量図を作成
⑦公図(北)の赤丸と青丸を、公図(南)のそれに合わせる(拡大縮小回転が必要)。 合わせた外周(下の赤線)で対象地の地積に合うように拡大縮小する。
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