市街化調整区域内雑種地

市街化調整区域内雑種地(2023.09.27追記)

目次

市街化調整区域とは

 「市街化調整区域」とは市街化を抑制すべき区域で、都市計画区域の中に必要に応じて指定されます。市街化調整区域では、農林漁業用の建物の建築や、一定規模以上の計画的開発以外は許可されません。市街化を促進すべき「市街化区域」とは、対照的な場所といえます。相続税評価においては、市街化調整区域が倍率地域と、市街化区域が路線価地域と、概ね(必ずではありませんが)一致しています。

倍率表に「雑種地」の項目は無い

 市街化調整区域内雑種地を評価する際に、多くの方がさいしょにぶつかる問題がこれです。

                   出典:国税庁財産評価基準書

 倍率表には通常「雑種地」の項目がありません。なので、評価に慣れていないと、この時点で困ってしまいます。項目がない理由は、雑種地は本質的に、まとまらずに点在していることが多く性質が雑多であるため、地域に対応した画一的な倍率を設定しにくいからとされます。したがって評価方法としては、①まず評価対象雑種地の価格と牽連性が最も強そうな(簡単に言うと周辺の)他地目の土地として評価し、②次に各雑種地の個別的特徴に応じて①に増減価を施す、というような二段階処理をすることになります。周辺の状況に応じてまずは畑として、宅地として、山林として評価して、次にその後特徴に応じて各地目との違いを反映させる、ということです。

市街化調整区域の雑種地の評価

 上の、「まずは・・・他地目の土地として評価して」の他地目は、「比準地目」とよばれ、周辺の状況によって判定します。はじめにこの比準地目を確定させ、下表に従って、評価を進めるのが実務上一般的です。

◇国税庁タックスアンサーNo.4628「市街化調整区域内の雑種地の評価」

(注1) 農地等の価額を基として評価する場合で、その雑種地が資材置場、駐車場等として利用されているときは、その土地の価額は、原則として、財産評価基本通達24-5(農業用施設用地の評価)に準じて、農地等の価額に造成費相当額を加算した価額により評価します(ただし、その価額は宅地の価額を基として評価した価額を上回らないことに留意してください。)。

(注2) ③の地域は、線引き後に沿道サービス施設が建設される可能性のある土地(都市計画法第34条第9号、第43条第2項)や、線引き後に日常生活に必要な物品の小売業等の店舗として開発または建築される可能性のある土地(都市計画法第34条第1号、第43条第2項)の存する地域をいいます。

(注3) 都市計画法第34条第11号に規定する区域内については、上記の表によらず、個別に判定します。

(注1)農業用施設の用に供されている土地については、本HPの「農業用施設用地の評価」をご覧ください。(注2)について、都市計画法第34条9号の施設は、施行令で「①道路の円滑な交通を確保するために適切な位置に設けられる道路管理施設、休憩所又は給油所等である建築物又は第一種特定工作物 ②火薬類取締法第二条第一項の火薬類の製造所である建築物」とされており、具体的にはガソリンスタンド・自動車用LPGスタンド・一般や大型観光のドライブインなどです。(注3)にある「都市計画法第34条第11号に規定する区域」とは、「市街化調整区域の中でも⼀定の集落を形成しており、主要な道路や排⽔施設が概ね整備された区域を指定することにより、住宅や小規模店舗などが立地可能となる区域(行田市HPより)」です。市街化調整区域において特別に指定された、建物が比較的建ちやすいエリアといえるかもしれません。


 比準地目は、周辺の状況によって判定と書きましたが、その根拠としては下の裁決事例が分かりやすいと思います。

名裁(諸)平29-23
評価通達82において、雑種地の価額は、原則として、比準土地について評価通達の定めるところにより評価した1㎡当たりの価額を基として評価する旨定めている。これは、土地の価額が、一般的にその土地の最有効使用を前提として形成されると考えられること、そして、この最有効使用の態様は、周辺土地の標準的な使用状況によって影響を受けるものであるから、比準土地の判定に当たっては、評価対象地の周辺の状況を十分考慮して判定するのが適切と考えられることによるもので、合理的な判断手法ということができる。

比準方式評価の具体的方法 

(1)農地比準や山林比準 

 評価対象地が所在する自治体の、固定資産税を管轄する部署に赴き、評価対象地を示して「近傍畑(田・山林)単価を教えてください」と尋ねます。そこで聞き出した価格を基に評価を進めます。なお、評価額は宅地比準としての価額を上回らないことに留意が必要です。

× 評価対象雑種地の実際の固定資産税価額
× 評価対象雑種地の実際の固定資産税価額×任意の倍率
○ {近傍畑(田・山林)価格×農地倍率+宅地造成費単価}×地積

(2)宅地比準方式の具体的方法

 評価対象地が所在する自治体の、固定資産税を管轄する部署に赴き、評価対象地を示して「近傍宅地単価を教えてください」と尋ねます。そこで聞き出した価格を基に評価を進めます。なお、画地補正については、普通住宅地区にあるものとして画地補正率の算定を行います(国税庁質疑応答事例)。

× 評価対象雑種地の実際の固定資産税価額
× 評価対象雑種地の実際の固定資産税価額×宅地倍率
× 近傍宅地単価×宅地倍率×地積
× 近傍宅地単価×宅地倍率×画地補正率×地積
○ {近傍宅地単価×宅地倍率×画地補正率×(1-しんしゃく割合)-宅地造成費単価}×地積

 なお、宅地造成費の控除は、しんしゃく割合考慮の後とされます(平成12年12月21日裁決)。

しんしゃく割合(宅地比準の場合にのみ考慮)

(1)しんしゃく割合の考え方

 表中の「しんしゃく割合」とは、建築可能性と言い換えられるでしょう。可能性が高ければそれだけ土地の価値は上がり、低ければ下がります。この割合は0%・30%・50%の三通りのいずれかから、一つを選ぶことになります。これは評価通達27-5が準用されています(沖裁(諸)平17第19号等)が、50%以上の借地権割合を使用することはできません。

評価通達27-5(区分地上権に準ずる地役権の評価)抜粋

①家屋の建築が全くできない場合
100分の50又はその区分地上権に準ずる地役権が借地権であるとした場合にその承役地に適用される借地権割合のいずれか高い割合

②家屋の構造、用途等に制限を受ける場合
100分の30

(2)しんしゃく割合の調査

 自治体の窓口で、「この土地の建築可能性の程度はどうですか」と質問をしても、こちらが望むような回答は期待できません。市街化調整区域の建築については、都市計画法のみならず各自治体の独自の条例の制限もあり複雑なことが多いのです。市街化調整区域の土地に何とかして建築をしようとする業者・個人もいます。窓口の回答ひとつが土地の価値を大きく左右し、それが地域内の他の土地にも影響する可能性があることから、担当官の回答は自然慎重になります。正直、窓口対応に腹が立つこともあるかもしれませんが、その辺の事情も酌んであげる必要があります。質問は、「34条11号区域に該当しますか」とか、該当しない場合は「では34条の立地基準が適用されるのですね」とか、「市街化区域と同様に建築が可能ですか」とかいうように、より具体的にするのがコツです。

(3)しんしゃく割合の判定

 聴取した内容を基にしんしゃく割合を判定します。しかし、どの程度の建築規制がしんしゃく割合の30%と50%とを分けるかについて、明確な基準がある訳ではなく、この点も市街化調整区域内雑種地の評価を困難にしています。自信をもってしんしゃく割合を判定できる人はいない、とすら私は思っています。市街化調整区域内雑種地の評価は誰がやっても難しいのです。下はしんしゃく割合の判定例(あくまでも一例)です。

○市街化区域と同様に建築が可能なわけではなく、都市計画法第34条の立地基準が適用される。→しんしゃく割合30%

○都市計画法第34条9号店舗の立地基準を満たしているが、下水処理区域外で他の排水処理施設も不十分であり、同33条の技術基準を満たさない→しんしゃく割合50%

都市計画法33条・34条

 市街化調整区域において開発行為を行うには、都市計画法第33条に加えて同第34条の規定を満たす必要があります。33条は通称「技術基準」と呼ばれるものであり、開発許可制度において、公共施設の整備や防災上の措置が講じられているかなどを判断する基準のことをいいます。この基準は、一定の開発行為について、公共施設等の整備や防災上の措置を義務づけることにより、良好な宅地水準を確保することを目的としています。34条は通称「立地基準」と呼ばれ、開発許可制度において、市街化調整区域における立地の適正性を判断する基準のことをいいます。この基準は、都市の周辺部における無秩序な市街化(スプロール)を防止するため、土地の利用目的に沿った立地の適正性を確保することを目的としています。

○技術基準(法第33条):道路・公園・給排水施設等の確保、防災上の措置等に関する基準です。

・排水路その他の排水施設(1項3号)←「自己居住用の住宅」の開発行為にも適用されます。

・水道その他の給水施設 (1項4号)←「自己居住用の住宅」の開発行為には適用されません。

○立地基準(法第34条)‥市街化調整区域にのみ適用されます。市街化を抑制すべき区域という市街化調整区域の性格から、許可できる開発行為の類型を限定しています。

・周辺居住者の利用の用に供する公益上必要な施設又は日用品店舗等日常生活に必要な施設の用に供する目的で行う開発行為(第1号)
・市街化区域内において建築し、又は建設することが困難又は不適当なものとして政令で定める建築物又は第一種特定工作物の建築又は建設の用に供する目的で行う開発行為(第9号)

・市街化区域に近隣接する一定の地域のうち、条例(開発許可権者が統轄する地方公共団体が定める。以下同じ。)で指定する区域において、条例で定める周辺環境の保全上支障がある用途に該当しない建築物の建築等を目的とする開発行為(第11号)

(出典:国交省・福岡市を一部加工)

目次