道路高低差による10%減額評価(で、何mならOKなの)

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道路高低差による10%減額評価とは

 道路より著しく高い又は低い位置にあり、その利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく低下していると認められる土地については、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額に10%を乗じて計算した金額を控除した価額によって評価することができます。ただし、路線価又は倍率が、利用価値の著しく低下している状況を考慮して付されている場合にはしんしゃくできません(タックスアンサーNo.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価)。納税者にとっては有利な規定ですが、この10%減額評価が認められるためには、いくつかのハードルを越えなりません。このハードルについて、一つ一つ考えていきましょう。

10%減が認められるためのハードル

著しい高低差とは何mか

 はじめに問題になるのは、「著しく高い又は低い」というのは、何m以上を指すかです。この点についての公的な見解は無く、案件ごとに頭を抱える論点の一つとなっています。

①争訟事例等にみる高低差の程度

 「著しく高い又は低い」の手がかりとして、国税不服審判の裁決事例を見てみましょう。関連のものを収集して、グラフに落としてみました。まず縦軸ですが基準を道路面(±0m)として、上に行くほど高い土地、下に行くほど低い土地です。プロットされた点の色は、白が認容、黒が否認です。点と点の間の縦線は、坂道等の理由から高低差に幅がある土地です。「併用」とあるのは、道路高低差以外にも減価要因(例えば忌地)があり、これとの複合的な理由から是認されているケースです(△は裁決事例でなく筆者関連の直近の実務結果)。

符号裁決番号裁決年月日
(1)仙裁(諸)平17第12号18.03.10
(2)沖裁(諸)平17第16号18.03.15
(3)(4)沖裁(諸)平17第17号 18.05.08
(5)(6)仙裁(諸)平18第07号 18.12.08
(7)関裁(諸)平18第67号19.04.23
(8)参考事例(実務案件)
(9)(10)東裁(諸)平20第151号  21.04.06
(11)名裁(諸)平22第053号23.05.16
(12)(13)(14)名裁(諸)平23第101号24.05.08
(15)東裁(諸)平24第172号25.03.11 
(16)関裁(諸)平25第018号25.12.02
(17)(18)東裁(諸)平26第094号 27.04.10

 パッと見て感じるのは、黒丸つまり否認事例が多いこと、そして道路よりも随分と高い土地についても否認されていることではないでしょうか。不安を持たれるかもしれませんが、しかし、これは裁決事例の調査なので、異議申し立て以前に決着した認容ケースはサンプルに入ってきません。また、黒丸の多くは路線価に考慮されている等を理由とした否認であり、絶対的な高さが理由で否認されているのは僅かに(16)がそう読める程度である点にもご注意下さい。 詳細は各裁決をご一読いただきたいのですが、グラフからは、「著しい高低差」の程度について、低い方なら-0.7mと-1.9mの間のどこかに線があるように思えます。一方、高い方については(16)の裁決で「最大0.8mは著しいとは言えない」と読めるほかは、把握が困難です。

②市場性からみる高低差の程度

 不動産仲介業者(7人)様を対象として、アンケートのご協力を頂いたことがあります。道路と等高な土地を±0m=100%としたときに、道路より高い又は低い(横軸)土地の、増減価割合(縦軸)を問うたところ、ご回答の平均値が下です。あくまでも、この調査からは、という前提ですが、10%の減価が認められるのは、低い方で-1.0m、高い方で約2.3mでした。

③10%減の高低差の程度

 ①②を総合すると、10%の減額評価を行う程度に「著しい」高低差というのは、低い方では-1m~-2m弱、高い方では2m強という線が見えてきます。この線は筆者の個人的な実務経験に照らしてもしっくりきますし、相続税土地評価に精通した複数の評価担当者との情報交換とも整合します。もちろんオフィシャルな根拠がある訳でなく、あくまでも目安程度にご参考ください。

高低差があっても利用価値が低下していない場合

 かなりの程度の高低差があっても否認の可能性があることは、「2.①」のグラフからも分かります。「著しい高低差」が必ずしも「著しい利用価値の低下」を意味するものではないということです。例えば、グラフ事例(1)の評価対象地は、起伏のある地勢の複数路地を造成した結果、店舗用地として使用されています。周辺地勢から考えると、ある路線に敷地面を合わせると他の路線と+の高低差が生じ、他の路線に敷地面を合わせるとまた別の路線と-の高低差が生じ、というような結果は避けられません。事業で最善の効果が期待できるような造成を行った結果、たまたま一つの路線と高低差があるからといって「利用価値が低下」というのは認められない、と読めます。グラフ事例(17)(18)は、法面部分が横穴式のボックス車庫として使用されているケースです。便利に使っているのだから「低下」していない、ということなのでしょう。

路線価に考慮とは

 著しい高低差があり、さらにそれが著しい利用価値の低下をもたらしていたとしても、路線価がそれを既に織り込んでいる場合には、この10%減評価は出来ません。左図は道路の彼我で宅地面の高さが異なります。普通に考えれば、Ⅹ土地の利用価値はY土地のそれよりも低下しているといえ、10万円の路線価を用いて公平な評価を行うためには、Ⅹ土地について10%減を施すのは自然と言えます。他方、右図のように、道路高低差があったとしても、対向面も同様の場合は10万円の路線価を用いてX・Zの両土地を評価することに不公平はなく、このような場合は利用価値の低下が路線価に既に考慮(反映)されていると扱われます。

 上のような地勢は、「路線価に考慮」とは何かを説明する際によく用いられる例ですが、気を付けなければならないのは下のように、坂道に沿って宅地が連坦しているようなケースです。

 このような場合でも、上右図同様に利用価値の低下が「路線価に既に考慮(反映)されている」と判定されることが多く、たまたま土地の一部分に相当な高低差があっても油断はできません。事例(5)(6)(9)(10)(12)(13)(14)(15)などはこのような地勢にある土地について争われ、10%減評価が否認されたものであり、注意する必要があるでしょう。

裁決事例

ア:利用者自らの意向によるむしろ価値を高める造成という理由で、10%減額主張が斥けられた争訟事例

◇仙裁(諸)平17第12号(平成18年3月10日・グラフ(1))
【認定事実】店舗の位置は、東側A路線の境界線から約0.6m、北側B路線の境界線から約1.0m内側にあり、その床面は、本件甲土地部分において東側A路線に対して1.5mから2.6m、北側B路線に対して0mから1.5m高くなっている。この高低差は、—が店舗への進入の便を図るため—の 高さにあわせて本件甲土地に土盛りをしたために生じたものであり、その擁壁は、店舗の外壁と一体として構築されている。
【評価額】そして、本件甲土地は、店舗の床面を—の高さに合わせたことにより店舗の敷地としての利用価値が高められており、店舗の底地部分が東側A路線及び北側B路線に対して高低差があることによって、付近の宅地の利用状況に比較して利用価値が低下していないから、本件甲土地の接面道路との高低差は、評価額を減額する要因とは認められない。

イ:道路面から1.9m低い土地について、10%減額主張が認められた争訟事例

◇沖裁(諸)平17第17号(平成18年5月8日・グラフ(4))
【認定事実】土地4は不整形な無道路地で、半分以上は空閑地である。また、土地4には北側と東側で道路に通じる二つの通路があり、土地4の北側は道路より1.9m低く、東側は道路より1.2m低い。
【評価額】原処分庁は、土地4は宅地として不都合なく利用されているから、著しく利用価値が低下しているとは認められない旨主張するが、土地4は、上記(イ)のAのとおり利用路線より1.9m低く、付近にある宅地に比し著しく高低差があり、上記イの(ロ)のCの取扱いの①に該当すると認められるから、宅地としての価額の10%相当額を控除した価額によって評価することが相当である。

ウ:接面路線と同一方向の坂道に接する土地について、路面より2.7mないし3.9m高いが10%減額主張が斥けられた争訟事例

◇東裁(諸)平24第172号(平成25年3月11日・グラフ(15))
【認定事実】本件宅地の地盤面は、本件路線の道路面よりも高い位置にあり、本件路線に接する部分には、土留めの擁壁(下方は間知石積擁壁、上方は増積擁壁となっているもの)が築造されている。本件宅地の地盤面と本件路線の道路面との高低差は、最小が本件宅地の東端部分の約2.7m、最大が本件宅地の西端部分の約3.9mであり、東端から西端に進むにしたがって徐々に拡大している。
【審判所】本件取扱いは、同一の路線に接する一連の宅地に共通している地勢の宅地の地盤面と道路の路面との高低差と、評価する宅地の地盤面と道路の路面との高低差とを比較検討しでも、なお、後者に著しい高低差のある場合に限るのが相当である。本件宅地が面する本件路線は、東側から西側方向へ下る坂となっているため、本件宅地を含む本件路線に接する宅地の地盤面には本件路線の道路面との高低差があり、このことは本件路線に接している宅地に共通したものであることが認められる。また、上記(2)のロのとおり、本件路線に接するその他の宅地の地盤面には、本件路線の道路面との高低差が本件宅地と同程度のものも認められることからすると、本件路線に接する一連の宅地に共通している地勢の宅地の地盤面と道路の路面との高低差と、本件宅地の地盤面と道路の路面との高低差を比較検討しでも、なお著しい高低差があるとはいえない。

符号最大高低差該当する宅地件数
1m未満A1、A2、A33件
1m以上2m未満1件
2m以上3m未満1件
3m以上D1、D22件
注 D3(駐車場)の本件路線との最大高低差は約4.5mである。

エ:10%減額主張が斥けられた争訟事例~①車庫利用②接面路線と同一方向の坂道に接する土地

◇東裁(諸)平26第094号
(本件各土地を含む本件路線西側の土地については、その全ての土地において、当該土地の地盤面と本件路線の路面との高低差を利用して車庫(法面部分を削って設置したボックス型の車庫)を設置しているようです。)
【審判所】
 本件路線東側の土地及び本件路線西側の土地と本件路線の路面との高低差を比較すれば、一定の高低差があることは否定できない。しかしながら、上記ロの(ハ)のとおり、本件路線東側の土地の地盤面と本件路線の路面及び本件路線西側の土地の地盤面と本件路線の路面は、いずれの土地も、大小こそあるものの高低差があり、高低差自体は本件路線に接する一連の宅地に共通したものであると認められる上、土地の地盤面と本件路線の路面との高低差が本件各土地の地盤面と本件路線の路面との高低差と同程度の土地があることも認められる。また、上記ロの(ニ)のとおり、本件路線西側の土地については、その全ての土地の地盤面と本件路線の路面との各高低差を利用して車庫を設置しており、当該各高低差は、当該各土地の利用価値を著しく低下させるには至っていない。以上からすれば、本件各土地の地盤面と本件路線の路面との高低差は、同一の路線(本件路線)に接する一連の宅地に共通している地勢の宅地の地盤面と道路(本件路線)の路面との高低差と比較しても、本件各土地の利用価値を著しく低下させるような高低差であるとは認められない。したがって、本件各土地は、本件取扱いにおける「その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの」には該当しないことから、本件取扱いにより評価することはできない。



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