共有・使用貸借と貸家建付地評価

 貸家敷地について、その土地や建物(貸家)が共有である場合、またそこに使用貸借が関係してくる場合の土地評価について検討します。なお、図は上の四角が建物(貸家)持分を、下のそれが土地の持分を便宜的に表示したものです。

目次

①甲が土地を単独所有しており、建物も同様に甲が単独所有している場合

 基本的なケースといえますが、土地について使用貸している部分が無いため、全体について貸家建付地評価が行われることになります(評価通達26)。
※土地評価額:自用地としての価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

②甲が土地を単独所、乙が建物を単独所有、使用貸借の関係にある場合

 使用貸借に係る土地については、自用地評価が行われます(使用貸借通達3)。
※土地評価額:自用地としての価額

③甲が土地を単独所、建物は甲乙が1/2ずつで共有しており、乙による地代の支払いはない場合

 札幌高裁平成26年12月19日で争われました。この場合は、土地全体のうち乙の分については使用貸しされていると考え、その部分については自用地評価が行われます。借家人の権利は土地全体に及ぶため、全体が貸家建付地として評価されるべきとも思えますが、その考えは退けられています。高裁が支持する土地の評価方法は下です。

※土地評価額:(1)+(2)
自用地としての価額×自用地部分の割合1/2=(1)(自用地部分の価額)
自用地としての価額×貸家建付地部分の割合1/2×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)=(2)(貸家建付地部分の価額)

札幌高裁平成26年12月19日   札幌南税務署長が本件各土地の評価に当たり、控訴人の本件各建物の持分である2分の1に相当する部分については使用貸借通達に則って自用地として評価し、亡乙の本件建物の持分である2分の1に相当する部分について貸家建付地として評価したことを相当であるとした判断について、(中略)本件各建物が共有であることから、持分割合によるのが相当であると評価をしているのであり、それ自体相当な判断であり、理由不備でないことは明らかである。(中略)本件各土地が本件各建物のために負担している敷地利用権は、控訴人の使用貸借に基づく部分がある分だけ、亡乙が本件各建物を単独所有している場合よりも観念的には負担の少ないものというべきであり、控訴人の主張は、本件各建物が敷地を不可分の形で利用していることを根拠として、控訴人の本件各建物の共有持分の2分の1について、敷地利用権が使用貸借であることを無視すべきであると主張しているにすぎず、採用することはできない。

④甲乙がそれぞれ土地建物を1/2ずつで共有している場合

 貸家の持ち分と、その敷地の持ち分が同一割合の共有というケースです。①②から類推すると、使用貸借部分が無い場合、いずれも貸家建付地評価が行われると考えられます。この類推は、裁決事例(東裁(諸)平28-69(平成28年12月7日))とも整合します。

※甲持分評価額:自用地としての価額×持分割合1/2=自用地としての価額(甲持分)
 自用地としての価額(甲持分)×貸家建付地部分の割合1/1×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
 乙持分評価額:自用地としての価額×持分割合1/2=自用地としての価額(乙持分)
 自用地としての価額(乙持分)×貸家建付地部分の割合1/1×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

東裁(諸)平28-69(平成28年12月7日)
概念図 5土地の状況(平成22年1月1日より前)

本件被相続人が当該家屋の持分を有していた平成22年1月1日より前においては、本件5土地全体のうち本件被相続人が持分を有していた部分に対する当該家屋の敷地利用権は所有権に基づくものであることから、同日より前から当該家屋の賃借人であった者の敷地利用権に対応する土地の価額は、貸家建付地であるとした場合の価額となる。

⑤甲乙が土地を1/2ずつで共有、建物を3/4と1/4とで共有している場合

 ③同様、①②からの類推や争訟事例から考察してみます。土地について、甲の持分については使用貸ししている土地部分は無いですが、乙の持分については、観念上はそれがあるといえるでしょう。だとするならば土地評価に際しては、甲の持分全てについて、乙の持分1/2(全体からすれば1/4(=1/2×1/2))について、貸家建付地評価が行われると考えられます。③で示した札幌高裁判断の「本件各土地が本件各建物のために負担している敷地利用権は、控訴人の使用貸借に基づく部分がある分だけ、亡乙が本件各建物を単独所有している場合よりも観念的には負担の少ないものというべきであり」という部分とも整合するのではないでしょうか。

※甲持分評価額:自用地としての価額×持分割合1/2=自用地としての価額(甲持分)
        自用地としての価額(甲持分)×貸家建付地部分の割合1/1(持分全て)
                      ×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
 
 乙持分評価額:(1)+(2)
        自用地としての価額×持分割合1/2=自用地としての価額(乙持分)
        自用地としての価額(乙持分)×自用地部分の割合1/2=(1)(自用地部分の価額)
        自用地としての価額×持分割合1/2=自用地としての価額(乙持分)
        自用地としての価額(乙持分)×貸家建付地部分の割合1/2
             ×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)=(2)(貸家建付地部分の価額)

⑥甲乙が土地を1/2ずつで共有、建物を甲が単独所有している場合

 ③とは建物と土地の持ち分が逆のケースです。③で示した札幌高裁判断の趣旨が「土地が建物のために負担している敷地利用権は、使用貸借に基づく部分がある分だけ、観念的には負担の少ないものというべき」であるならば、下のように推測できるはずです。

※甲持分評価額:自用地としての価額×持分割合1/2=自用地としての価額(甲持分)
 自用地としての価額(甲持分)×貸家建付地部分の割合1/1×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

 乙持分評価額:自用地としての価額×持分割合1/2

⑦甲乙が土地を1/2ずつで共有、建物を甲が単独所有している場合(借家人の入れ替わり)

 次は、借家人の入れ替わりがあるケースです。貸家敷地であっても自用地評価されることがある点は、上で検証した通りです。さて、別記もしたとおり「東裁(諸)平28-69(平28.12.7裁決)」は、土地使用貸借を前提として入居した借家人と、そうでない場合を前提として入居した借家人とが混在する場合は、その割合に応じた貸家建付地評価を行うべきことを示しています。この判断を前提とするなら、理屈的には下のような処理が考えられます。もちろん、土地については使用貸借とします。

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